コスモスたより~コラム:行政書士法の一部を改正する法律案 衆参両院で可決~

はじめに

衆議院及び参議院にて行政書士法の一部を改正する法律案が審議され、両院において可決、成立しました。

施行日は、令和8年1月1日となります。

国会でつくられる法律には、➀内閣から国会に提出される法律案である内閣提出法案(閣法)と➁国会議員が法案を作成し、国会に発議等をして行う議員立法(議法)があります。

行政書士法(昭和26年2月22日法律第4号)は、➁議員立法(議法)でつくられた法律です。

閣法と議法では、閣法をまずは国会で審議してその手続きをすべて済ませ、国会会期末に議法を審議するというのが国会運営の慣例となっています。

そのようななか、第217回国会(通常国会)にて、衆議院及び参議院で行政書士法の一部を改正する法律案が審議され、両院において可決し、成立しました。

参照:衆法 第217回国会 36 行政書士法の一部を改正する法律案

参照:行政書士法の一部を改正する法律案:参議院

参照:【会長談話】「行政書士法の一部を改正する法律」の成立について | 日本行政書士会連合会


【法律のまめ知識➀】

日本国憲法では、国家の諸作用をその性質に応じて立法・行政・司法に区別し、分離させ、相互に抑制と均衡を図らせています。権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障するために、このような三権分立制が採用されています。

立法権は憲法第41条により国会に、行政権は憲法第65条により内閣に、司法権は憲法第76条により裁判所に担わせています。

そのうち、憲法第41条では、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と規定されています。立法機関である国会に上程される法律案には、➀内閣から提出される内閣提出法案(閣法)と➁国会議員が法案を作成し、発議等をして行う議員立法(議法)があります。

閣法は、時の内閣の方針等に基づき立法すべき状況にあると判断された場合に行われます。時の内閣が自らの政策を実行に移すために、内閣法制局に法律案を起草させ、内閣総理大臣の名前で国会に上程します。

議法は、憲法第41条の基本理念に基づき、国会議員が立案に対して衆議院法制局、参議院法制局の補佐等を受け、一定の手続きを経て、法律案として国会に上程されます。


行政書士法の一部改正の内容

衆議院法制局では、行政書士法の一部を改正する法律案要綱を公開しています。

一  行政書士の使命
行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もって国民の権利利益の実現に資することを使命とするものとすること。
(第1条関係)

二  職責
1 行政書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなければならないものとすること。
2 行政書士は、その業務を行うに当たっては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならないものとすること。
(新第1条の2関係)

三  特定行政書士の業務範囲の拡大
特定行政書士が行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成することができる範囲について、行政書士が「作成した」官公署に提出する書類に係る許認可等に関するものから、行政書士が「作成することができる」官公署に提出する書類に係る許認可等に関するものに拡大すること。
(新第1条の4第1項第2号関係)

四  業務の制限規定の趣旨の明確化
行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限規定に、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」の文言を加え、その趣旨を明確にすること。
(第19条第1項関係)

五  両罰規定の整備
行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限違反及び名称の使用制限違反に対する罰則並びに行政書士法人による義務違反に対する罰則について、両罰規定を整備すること。
(第23条の3関係)

参照:第217回国会衆法情報|衆議院法制局


1、行政書士法第1条の目的規定が使命規定に

【旧法】
行政書士法
第一条(目的)
この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続きの円滑な実施の寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを目的とする。

【新法】
行政書士法
第一条(使命)
行政書士は、その業務を通じて、行政に関する手続きの円滑な実施の寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを使命とする。

このように目的規定が使命規定に改められています。

いわゆる八士業において、法律上で使命規定が定められている士業は、➀弁護士、➁弁理士、➂税理士、➃司法書士、➄土地地家屋調査士です。

上記の士業法に加えて、行政書士法もまた第一条において使命規定を定めることを内容とする改正となりました。

参照:

弁護士法
(弁護士の使命)
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。
弁護士法 | e-Gov 法令検索

弁理士法
(弁理士の使命)
第一条 弁理士は、知的財産(知的財産基本法(平成十四年法律第百二十二号)第二条第一項に規定する知的財産をいう。以下この条において同じ。)に関する専門家として、知的財産権(同条第二項に規定する知的財産権をいう。)の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とする。
弁理士法 | e-Gov 法令検索

税理士法
(税理士の使命)
第一条 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
税理士法 | e-Gov 法令検索

司法書士法
(司法書士の使命)
第一条 司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
司法書士法 | e-Gov 法令検索

土地家屋調査士法
(土地家屋調査士の使命)
第一条 土地家屋調査士(以下「調査士」という。)は、不動産の表示に関する登記及び土地の筆界(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第百二十三条第一号に規定する筆界をいう。第三条第一項第七号及び第二十五条第二項において同じ。)を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もつて国民生活の安定と向上に資することを使命とする。
土地家屋調査士法 | e-Gov 法令検索


【法律のまめ知識②】

八士業
特定の法律に基づいて業務を行う資格者のうち、主に戸籍や住民票等を職務上請求できる8つの職業を指します。
具体的には、弁護士、司法書士、弁理士、税理士、行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、海事代理士です。

・弁護士:法律に関する相談や訴訟等、法律全般の業務を行う。

・司法書士:
不動産や会社の登記、供託等の業務を行う。

・弁理士:
知的財産(特許、商標等)に関する業務を行う。

・税理士:
税務に関する業務を行う。

・行政書士:
官公署に提出する書類(申請書、許認可等)を作成する。

・社会保険労務士:
労務管理、社会保険に関する業務を行う。

・土地家屋調査士:
不動産の調査、測量、登記に関する業務を行う。

・海事代理士:
船舶に関する申請、届出、登記等を行う。

八士業の特徴

特定の法律で定められた独占業務を持つ。

・専門的な知識と技能が必要となる。

・住民票や戸籍謄本等を職務上請求できる(一部を除く)。


2、行政書士の職責規定を新たに条文化

行政書士の職責は、行政書士法第1条の2において、新たに条文として規定されました。

行政書士法
(職責)
第一条の二 行政書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実に業務を行わなければならない。
2 行政書士は、その業務を行うに当たっては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない。

行政書士は、行政書士法によって独占業務を与えられた国家資格者です。そして、住民票や戸籍謄本等を職務上請求できる権限を与えられています。このことから、より一層の高い倫理観をもって行政書士業務に向き合うように求められています。

日本政府はデジタル化を推進しています。令和5年度には日本行政書士会連合会とデジタル庁との間で「誰一人取り残されないデジタル社会」の実現のために必要な事業の企画及び実施に関して、相互に協力して推進するための連携協定を締結しました。これをきっかけに、令和6年度において行政書士会では、マイナンバーカードの普及促進やデジタルデバイドの解消に向けた支援等、国が進めるデジタル施策の具体的な推進に協力してきました。こうしたデジタル化の推進活動は、デジタルデバイド解消へ行政書士が深く関与することで、国民の申請権の擁護に直結し、「国民の権利利益の実現」に寄与することにつながります。

このような背景から、行政書士の職責が条文化されたことに伴い、行政書士がどのような姿勢で職務(行政書士業務)に向き合わなければいけないのか、そして、どのような社会的責任を負っているのかについて明らかにされました。

3、特定行政書士の職務範囲の拡大

【旧法】
第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

【新法】
第一条の四 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

【旧法】では、特定行政書士が不服申立手続きを代理できる範囲は「行政書士が作成した」ものに限られていましたが、【新法】では、その範囲が「行政書士が作成することができる」ものに拡大されています。

すなわち、【旧法】では、例えば、顧客様から許可申請のご依頼を預かり、行政手続きの専門家である行政書士が申請添付書類を作成し、役所に申請をした結果、不許可だった場合に限り、特定行政書士は不服申立手続きを顧客様を代理して行うことができるものとされていました。

【旧法】での問題点は、行政書士が許認可申請の代理手続きを顧客様からご依頼として預かり役所へ申請した場合、ほとんどの場合で不許可になることはないということです。顧客様ご本人で許認可申請をすることは当然に認められていますので、ご本人で申請し、結果として不許可であった場合、特定行政書士が顧客様を代理して不服申立手続きを行うことはできませんでした。

このことから、特定行政書士として顧客様を代理して不服申立手続きを行うことはあまり想定されていませんでした。

しかし、【新法】では、顧客様ご本人で申請し、結果として不許可であった場合でも、行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関してであれば、顧客様を代理して不服申立手続きを行うことができるようになりました。

このことは、本人申請で不許可となった顧客様の権利利益の実現を図るため、特定行政書士がさらに顧客様の立場に寄り添える権限を有したことを意味します。

このように国民の権利利益を保護するため、特定行政書士の扱える職域が拡大された改正となりました。

4、行政書士業務の制限規定の趣旨の明確化

【旧法】
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。

(罰則)
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
一 行政書士となる資格を有しない者で、日本行政書士会連合会に対し、その資格につき虚偽の申請をして行政書士名簿に登録させたもの
二 第十九条第一項の規定に違反した者

【新法】
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるものかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。

(罰則)
第二十一条のニ 第十九条第一項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。

【旧法】では、「業」として行っていないのであれば、行政書士法に違反しないという解釈から、例えば、役所に提出する書類作成費用は無償ということにしつつも、別名目(例えば、コンサルタント費用、土地売却費用等)によって実質的に書類作成費用も請求している事案が多く見受けられ、また、法外な費用を依頼者が支払わされる等といった損害も発生していました。

これらの事情を踏まえて、【新法】では、「他人の依頼を受けいかなる名目によるものかを問わず報酬を得て、」という文言を条文に加えることで、旧法での問題点を解消しました。

このことも、国民の権利利益を保護する観点からの改正といえます。

5、両罰規定の整備

【旧法】
(罰則)
第二十三条の三 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条第一号の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。

【新法】
(罰則)
第二十三条の三 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、第二十一条のニ、第二十二の四、第二十三条第二項又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。

このように、行政書士法に違反した者が法人に所属している場合、違反した者に加えて、その者が所属している法人もまた処罰の対象となります。

個人のみならず、法人に対しても、より一層の法令順守を徹底することが法律上求められていくことになります。


行政書士法の一部改正を受けて

この度の法改正の内容は、行政書士の社会的責任が増すとても大きな改正です。

行政書士資格は、国民の負託を受けて法律によって独占業務を与えられている国家資格です。

この度の行政書士法の一部改正を受けて、例えば、行政書士又は行政書士法人でない者による業務の制限規定の趣旨が条文化されたこと、両罰規定の整備が図られたことで、行政書士に対する期待がより一層明確にされたからこそ、行政書士の使命や職責に基づき、国民の申請権を確保するために、より一層の社会的役割が国民から求められていくことになります。また、特定行政書士の職域拡大は国民の権利利益の実現を図るための事後救済手続きを担う役割として、こちらの改正も行政書士に対するより一層の社会的役割が国民から求められていくことになります。

当事務所は、この度の行政書士法の一部改正を受けまして、さらに顧客様へのお役立ちができますようにこれからも行政書士業務に真摯に向き合い、専門性を高めていけるように励んでまいります。

アクシアークス行政書士事務所
行政書士 大野 成夫

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