目次
はじめに
田や畑といった農地で今まで耕作をしていたけれど、農家であったお父さまやお母さまがお亡くなりになられて跡継ぎがいなかったり、あるいは、離農するために農地を第三者へ貸したいなどとお考えの方が多いです。
後のことを考えて農地を荒地にしないための手段として、耕作をする意欲のある第三者に農地を貸す(または売る)ことは、貸し手(または売り手)の側にとっても非常に有意義です。
そして、耕作面積を拡大したいと考える個人または法人の方にとって、農地を借りたい(または買いたい)とお考えのことと思います。
※農業法人が農地を借りるために必要なこと
農業法人の種類(株式会社/農事組合法人)<農業法人設立をお考えの皆様へ> – アクシアークス行政書士事務所 (axiarqs.com)
農地の売買・貸借・相続に関する制度について:農林水産省 (maff.go.jp)
では、農地を貸す側・借りる側にとって、農地を貸借する際にはどのようなルール(制度)があることを理解しておかなければいけないのでしょうか?
今回の記事では、農地の貸借をテーマにして、その概要を記述します。
農地の貸借について
まずは、前提として、農地や貸借の意味について確認をしていきます。
農地法という法律で規制されている土地は「農地」に限られていますので、貸借したい土地が「農地」でないならば、これから記述をする農地法の手続きなどを考える必要がなくなります。
そこで、貸借したい土地が「農地」であるのかどうかを確認することが重要です。
農地とはなに?
農地とは、耕作の目的に供される土地のことをいいます(農地法第2条第1項)。参照:農地法 | e-Gov法令検索
それでは、「耕作」とはどのような意味なのでしょうか?
「耕作」とは、土地に労働及び資本を投じ肥培管理を行って作物を栽培することをいいます。
言い換えれば、土地に対して、手間暇やお金をかけて、肥料をあげたり、草刈り等の管理をして、農作物を栽培することを意味しています。
そして、「耕作の目的に供される土地」には、現在耕作をしている土地のほかに、現在は耕作をしていなくても、耕作をしようとすればいつでも耕作できる土地(休耕地、不耕作地)も含まれるとされています。
参照:平成12年6月1日12構改B第404号農林水産事務次官依命通知
農地の具体例として、①田、②畑、③果樹園、④牧草採草地等が挙げられます。
ここで注意が必要なのは、「農地」かどうかは、不動産登記簿上の地目(例:田、畑)で判断するわけではないということです。
すなわち、土地の地目は、登記簿上の地目によるのではなく、課税時期の現在の状況によって判断をします。
ここで具体例として、国税庁による照会要旨及び回答要旨をご紹介いたします。
参照:土地の地目の判定-農地|国税庁 (nta.go.jp)
貸借とは?
貸借とは、貸すことと借りることをいいます。
農地の貸借関係には、①使用貸借と②賃貸借があります。
①使用貸借と②賃貸借のちがいは、無料で借りれば使用貸借になり、賃料を払って借りると賃貸借となります。
借りたものが不動産(土地や建物)か動産(車や自転車等)かに関係なく、「賃料」が判断基準となります。
農地の貸借に関係する制度
それでは、貸借したい土地が農地であった場合に関係する制度について確認します。
個人または法人の方が、農地を貸借する場合には、農業委員会等の許可を受ける方法(農地法)と、市町村が定める「農用地利用集積計画」により権利を設定する方法(農業経営基盤強化促進法)があります。
農地法と農業経営基盤強化促進法の制度上のちがいは?
農地法に基づく貸借の制度
農地法に基づき、農業委員会等の許可を受け農地の賃貸借を行う場合は、契約期限が到来しても両者による解約の合意がない限り、原則賃貸借は解約されません。これを農地法による法定更新といいます(農地法第17条)。
参照:農地法第17条
「農地又は採草放牧地の賃貸借について期間の定めがある場合において、その当事者が、その期間の満了の一年前から六月前まで(賃貸人又はその世帯員等の死亡又は第二条第二項に掲げる事由によりその土地について耕作、採草又は家畜の放牧をすることができないため、一時賃貸をしたことが明らかな場合は、その期間の満了の六月前から一月前まで)の間に、相手方に対して更新をしない旨の通知をしないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものとみなす。」
個人または法人の方が、耕作目的で農地を貸借する場合には、一定の要件を満たし、原則として農業委員会の許可を受ける必要があります(農地法第3条第1項)。
また、この許可を受けずにした行為は無効となります(農地法第3条第6項)。
そして、農地法第3条第1項に違反した者には、罰則規定が適用されます(農地法第64条第1号)。
参照:農地法第3条第1項
「農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第五条第一項本文に規定する場合は、この限りでない。」
参照:農地法第3条第6項
「第一項の許可を受けないでした行為は、その効力を生じない。」
参照:農地法第64条第1号
「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
農業経営基盤強化促進法に基づく貸借の制度
個人または法人の方が、農地を貸借する場合、農地法第3条の許可を受ける方法のほか、農業経営基盤強化促進法に基づく利用権設定等促進事業(農用地利用集積計画)を利用する方法があります。
農業経営基盤強化促進法に基づく利用権設定等促進事業(農用地利用集積計画)の目的は、農業経営基盤強化促進法(昭和55年法律第65号。)に基づき、地域の中核的担い手となる農業者(経営の判断は世帯ではなく個人単位となる)の育成・確保、および経営改善を図る目的の達成のため、市町村が主体となって、地域の集団的土地利用や農作業の効率化等を促進することにあります。
農用地利用集積計画は、農地を貸す側と借りる側の貸借等を集団的に行うため、個々の権利移動をひとつの計画にまとめたもので、市町村が作成します(農業経営基盤強化促進法第18条第1項、第2項、第3項)。参照:農業経営基盤強化促進法 | e-Gov法令検索
農業経営基盤強化促進法に基づき、市町村が定める農用地利用集積計画により設定された賃借権については、農地法の法定更新の規定を適用しないこととしており、賃貸借の期間が満了すれば貸した側は賃貸していた農地を自動的に返還してもらえます。
なお、農地を貸した側と借りた側が引き続き賃貸借の継続を希望する場合は、市町村が再度、農用地利用集積計画を作成・公告することにより再設定することができます。
まとめ
農地の貸借に関係する制度には、①農地法に基づく貸借と②農業経営基盤強化促進法に基づく貸借があります。
農地法に基づく貸借では農地法第3条に基づく許可が必要となるのに対して、農業経営基盤強化促進法に基づく貸借では、農地法第3条に基づく許可は不要となり、市町村が主体となって農地を貸す側と借りる側の情報を収集し、市町村の基本構想に定めた要件を満たす担い手農家等へ、農地の貸借により農地を集積するため農用地利用集積計画を作成し公告をします。そして、市町村が作成した計画書を農業委員会の決定を経て公告することにより、計画書に記載された内容に基づき法的な効力が発生し、貸借が行われます。
また、農地法に基づく貸借では、契約期限が到来しても両者による解約の合意がない限り、原則賃貸借は解約されません(法定更新)が、農業経営基盤強化促進法に基づく貸借では、貸した側は、貸した農地について期限が来れば確実に返還されます(法定更新なし)。ただし、利用権の再設定をすることで継続して貸し借りをすることができます。
そして、法律の適用については、農用地利用集積計画書及び農業経営基盤強化促進法上に、特別の定めがない場合には、農地法の規定がすべての農用地に対して適用されることとなります。
参照:農地の売買・貸借・相続に関する制度について:農林水産省 (maff.go.jp)
さいごに
今回の記事では、農地の貸借をテーマにして、その概要について記述してきました。
少子高齢社会の到来により、様々な理由によって、農地を荒地にしないための「手段」として、耕作をする意欲のある第三者に農地を貸すことは、貸し手の側にとっても非常に有意義なことであるため、農地の貸借に対する関心が今後さらに高まる可能性があります。
私もくだもの農家ですので、農地を貸借する当事者の方々のお気持ちは十分に理解をさせて頂いておりますし、また、貸借上どのようなことでトラブルにつながるのかということも経験してきました。
このようなことから、農地を貸借することをお考えの皆様に対して、農地を貸借するうえで必要となる手続につきご相談に応じることで、円滑な農地貸借関係の構築にお役立ちいたします。
また、実際にくだもの農家としての経験に基づき、貸借上のトラブルを避けるためにあらかじめ当事者間で考えておくべきことについてもアドバイスさせて頂きます。
農地を貸す(売る)側・借りる(買う)側の皆様にとって、良好な関係で継続的な農地の貸借(売買)が実現できますようにサポートをさせて頂きますので、少しでもご心配なことがありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。
お問い合わせ – アクシアークス行政書士事務所 (axiarqs.com)